2019年03月11日
社会・生活
企画室
猪谷 聡
思い返すと数十年前―。小学校2年生の時、子ども用自転車の補助輪を取り外す"儀式"を経験した。初めは怖くてペダルが踏み込めす、何度も何度も転んだ。いつしか軽快に走れるようになり、心の中で「やった!」と叫んだ。今は亡き父から懸命の指導を受け、「やればできるんだよ」と声を掛けてくれた日が懐かしい。
「補助輪無し」の自転車は走るより何倍も速く、しかも疲れない。行動範囲も格段に広がり、重い荷物も運べるようになる。少しだけ、大人に近づいた気がした。毎日乗っていた自転車だが、電車通学の中学校入学以降、疎遠になってしまった。
そんな自転車が先日、人生の中に再び出現した。歩道を散歩していると、小学校高学年ぐらいの男の子が、筆者目掛けて突っ込んできたのだ。とっさに身をかわして事なきを得たが、日常にはない危険を感じた。
同時に、筆者は自転車運転の正しいルールを理解していないことに気づいた。そもそも自転車とは何か?乗ってよい場所といけない場所は?歩道を走ってよいのか?そこで、警視庁のホームページで調べてみた。
それによると、自転車は道路交通法(道交法)上、「軽車両」に含まれる。「ペダル又はハンド・クランクを用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車であって、身体障害者用の車いす、歩行補助車及び小児用の車以外のもの」と定義されていた。
また、自転車を乗る際に守るべきルールも見つかった。内閣府中央交通安全対策会議が2007年に定めた「自転車安全利用五則」である。具体的には、① 自転車は車道が原則、歩道は例外②車道は左側を通行③歩道は歩行者優先で車道寄りを徐行④安全ルールを守る(飲酒運転、2人乗り・並進の禁止、夜間はライトを点灯、交差点での信号順守と一時停止・安全確認)⑤子どもはヘルメットを着用―となっていた。
ごくごく当たり前の内容なのに、現実にはきちんと守られていないように思う。例えば、自転車が車道を走っている際、赤信号でも停止せず、歩道に乗り上げて走行を続け、その上猛スピードで歩行者を追い抜かす―。こうした光景をよく目にする。ある時は車、ある時は歩行者と二つの顔をうまく使いわけているように感じる。
道交法によると実は、普通自転車が歩道を走行してよいケースは、①歩道通行可の標識がある場合②運転者が13歳未満、もしくは70歳以上の場合③運転者が安全に車道を通行できない程度の身体の障害を有する場合④安全のためにやむをえない場合―などに限定されている。ところが現実には、こうしたケースに該当してないのに、自転車が歩道をビュンビュン疾走している。
一方で、自転車の視点で考えると、決して走行しやすい環境が整っているとはいえない。車道を走りたくても、違法駐車の自動車が車線をふさいでいて走れないケースが多い。また、歩行者のグループが自転車の通行を邪魔することも少なくない。本来、自転車専用の車線が望ましいが、筆者の住む東京23区内では難しい。
自転車の運転マナーが社会問題化する中、罰則規定の厳格化や、極端なものとしては自動車と同じく免許制にすべきだとの声も聞かれる。だがそれでは、老若男女が気軽に運転できる乗り物としての長所を失う。初めて補助輪を外して自転車に乗れた時のあの達成感や爽快感を、免許制が子どもから奪うような社会にはしたくない。
結局、先に紹介したルールの存在を世の中に認知してもらい、自転車運転者に限らず、歩行者もクルマのドライバーも皆でそれをきちんと守るしかない。それを実現するには、相手を思いやる意識と行動を、地域社会の中で地道に育んでいくしかないと思う。
(写真)筆者
猪谷 聡